鹿野田の住宅
作庭 松本和記
キッチン製作 kikoriworks
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山の緑には黒がふさわしいと、かねてから思っていた。
山小屋では臙脂色がよく使われているが、紅葉の色に近いからだろうか。それとも山小屋の存在を分かりやすくするために、緑の補色の赤に近い臙脂色が選ばれているのだろうか。その理由は定かではない。
ただ私としては山中にあって臙脂色はやや主張が強いと感じていて、山や緑多い地の近傍で設計する機会を得たならば、その建築は黒にしたいと想像していた。
黒はあらゆる色を吸収し自己の存在を消去するからだ。
自然のなかにあって―山小屋のような役割の建築は除いて―建築は主張する必要はない。
敷地は建築主の実家と東側の私道に挟まれた、南北に細長い地であった。南には小さな山がすぐ傍に見える。北も道路と隣家の屋根越しに同じような山が見えた。
室内は静かな空間となることを指向した。素材の艶と色調を抑え、色と線の数を減らし、空間の存在を希薄にしてできるだけ意識が外部―ここでは南の小さな山―へ向かうように志向した。
常に山が見える敷地の最南端に生活の中心となるLDKを置き、LDKの北面に小さな中庭を設け、南北に光と風が通り抜ける空間とした。敷地の間口が狭かったため、寝室や子供室や水廻りの諸室はLDKと南北方向に直列配置とし、各居室の南面に中庭を設けて採光と通風を確保している。
住宅を南北に貫く長い廊下は、この住宅での生活におけるハブであり中心でもある。中庭から差し込む仄かな光がつくりだす静寂な場として、家の中心としての役割にふさわしい空間とした。
この静かな空間で、温厚で穏やかな施主家族の和やかな生活が永く営まれることを願っている。
- 所在地:宮崎県西都市
- 構造規模:木造平屋建て
- 敷地面積:275.26㎡(83.26坪)
- 延床面積:103.72㎡(31.37坪)
- 施工:(有)富永建設
- 竣工:2023年10月
- 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE