ISHIODORI TAKESHI ARCHITECTS

タノサウナ

サウナ室内設計施工 NMON(株)
作庭 松本和記
ブランディング  (株)あふれる
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宮崎市中心部から車で西へ約30分。
大根やぐらで知られる、のどかな田園風景が広がる田野町に計画された個室サウナである。

クライアントは無類のサウナ愛好家である。地方都市において温浴施設は半ば社交の場でもあり、訪れるたびに知人と出会うことが多い。地域の関係性の豊かさである一方で、静かに心身を整えるための時間が損なわれてしまうこともある。
誰にも干渉されず、自分自身と向き合う時間を確保できるサウナをつくりたい。

同時に、通過点となりがちな「田野」の地名を広めたいというクライアントの想いから、個室サウナの計画が始まった。

サウナは世界各地で、身体を温める施設であると同時に精神を整える場所として捉えられてきた。
「サウナでは教会にいるように振る舞え」(フィンランド)

「サウナの中では皆が平等である」(ドイツ)
こうした言葉が示すように、サウナは人間の身体性と精神性を同時に扱う、極めて原初的な空間でもある。

設計者である私自身もまた、無類のサウナ愛好家である。
仕事に行き詰まったとき、アイデアが浮かばないとき、心身の疲労が積み重なったとき、必ずサウナへと向かう。
熱に包まれ汗と共に疲労物質や老廃物が流れ落ち、水風呂と外気浴を経た後には、思考がクリアになり心身がリセットされる。

人間が一糸まとわぬ姿で過ごす空間では、通常の空間以上に繊細な配慮と設計が必要である。
サウナを経た身体は感覚が通常以上に研ぎ澄まされる。
光の量、素材の触感、温度や湿度の移ろい、動線のわずかな距離までもが体験の質に直結する。
本計画では「この地と条件のもとで実現する、私の理想のサウナ」をつくりあげるつもりで設計を行った。

サウナは、趣の異なる4つの個室で構成される。
それぞれの個室に専用庭付きの外気浴テラスを備え、完全なプライベート環境を確保している。

Room-1

明るく開放感あるれるサウナ。外気浴テラスにはビロウやサボテンを植え、南国宮崎らしい庭を設えた。
Room-2
開口を絞り、かすかな光だけが差し込む瞑想サウナ。暗闇と静寂の中で、自分自身と向き合うための空間である。
Room-3

檜の香りに満ちたサウナ。庭にはソテツが植えられ、どこか懐かしい昭和の気配を感じさせる。
Room-4

屋外にバレルサウナを設置。アウトドアの開放感と個室のプライベート感を同時に満喫できる。

いずれの個室も「サウナ→水風呂→外気浴」の動線が最短となるように計画した。各動線は最大でも5歩以内で完結する。

外気浴テラスは敷地北側の畑に面している。
都市の喧騒や人工的な音から解放され、聞こえるのは鳥のさえずり、虫の音、木々のざわめき、風の気配、そして雨が静かに降り注ぐ音だけである。サウナ室内にはテレビや音響設備も設けていない。
視界に入るのは、もともと敷地に立っていた高木が風に揺れる姿と、庭の木々に降り注ぐ柔らかな光、そして壁に切り取られた空だけである。

外観は、国道側に白のガルバリウム鋼板波板を用い、素朴で飾り気のない佇まいとした。
一見すると倉庫や農業施設かのように田園風景の中に静かに紛れ込ませると同時に、どこかモダンな表現を残すことで、建物の用途を主張しない、道行く人の関心を引き寄せる外観としている。
入口は道路から直接見えない位置に配置し、外部から内部へと意識が切り替わる導入空間を設けた。

入口から受付、受付から個室へと至る廊下には赤い絨毯を敷いた。
裸足で歩いたときの柔らかな感触が心を落ち着かせ、サウナ後の研ぎ澄まされた感覚に優しさを与えるためである。

赤はサウナの熱を象徴する色であり、同時にどこか懐かしいレトロな気配を帯びている。
空間が冷たい印象にならないよう、あえて外した色や、ミニマル過ぎないディテールとした。

このサウナは「私が入るなら」という主観的な視点が多く盛り込まれ設計された建築ではある。
しかし同時に、地方の風景と静けさを資源として読み替え、サウナという文化を通して地域の魅力を再発見し発信する試みでもある。

この場所が長く愛されるサウナとなり、人々が目的地として訪れる「デスティネーションサウナ」となり、田野町の振興の一助となれば幸いである。

  • 所在地:宮崎県宮崎市田野町
  • 構造規模:木造平屋建
  • 敷地面積:1038.34㎡(314.09坪)
  • 延床面積:148.27㎡(44.85坪)
  • 施工:(有)富永建設
  • 竣工:2025年7月
  • 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE