ISHIODORI TAKESHI ARCHITECTS

一万城安楽歯科医院

作庭 松元和記
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宮崎県都城市で30年以上続く歯科医院の移転新築の計画である。

移転前の医院は、患者数の増加に応じて改修や増改築を重ねて対応してきたものの、動線は複雑で窮屈さを増し、医師・スタッフ・患者数すべてが建物のキャパシティーをはるかに超える状況となっていた。

新たな計画では、地方都市としては異例の数とも言える10台の診療ユニットが求められた。

診療ユニットを南北に5台ずつ配置し、その中央に滅菌や石膏などの機器と作業のスペース、電子カルテ端末を集約したエリアを設けることで、スタッフの動線を合理的に整理した。
中央エリアの家具の高さを1700mmとしたことで視線を制御しながらも光は隅々まで行き渡り、ユニット間はグラデーションフィルム貼りのガラスで仕切ることで、開放感とプライバシーの両立を図っている。
北側のユニットスペースは、北側の利点である直射光の入らない安定した採光を利用し、全面サッシとした。

自然光で満たされた診察室が患者に安心感を、スタッフには気持ちよく働ける環境を提供している。

2階には都城のシンボルでもある高千穂峰を望むことができるスタッフの食堂兼研修室が設けられた。

待合室は、ホテルのロビーのような重厚感とカフェのような軽妙さが共存する空間を目指した。

そのために飽きのこない普遍的な空間とすべく、ベージュと木を基調にした柔らかで温かみのある素材や色調を採用している。
外観は、宮崎らしいリゾート感のある形態や雰囲気となるように、大きく張り出したレッドシダーの軒とベージュのテラゾ調タイルを組み合わせた構成とした。

患者が訪れたくなるような、おおらかで親しみやすい建築・空間を志向しながらも、この医院の核にあるのは、何よりも医師とスタッフによるホスピタリティ溢れる診療と対応である。


建築やインテリアは、その核をやさしく包み込み支える細胞膜のような存在と言えるかもしれない。

私達が関わった建築空間が、医院のさらなる発展と地域医療の充実につながれば幸甚である。

  • 所在地:宮崎県都城市
  • 構造規模:木造2階建
  • 敷地面積:844.29㎡(255.40坪)
  • 延床面積:404.60㎡(122.39坪)
  • 構造設計:三輪智洋建築設計事務所
  • 施工:(株)内枦保住建
  • 竣工:2025年4月
  • 撮影:YASHIRO PHOTO OFFICE