ISHIODORI TAKESHI ARCHITECTS

FORT 7

作庭:庭・植裕 服部 裕昭

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「草木と共に生きたい」
クライアントとの初めての会話の中で最も印象に残った言葉である。

敷地は宮崎市中心部の繁華街に近い住宅密集地に位置していた。繁華街近接地という都市に生きることと、草木と共に生きたいという、一見相反してる条件から、3つの中庭を持つコートハウスのプランが導かれた。

3つの中庭はそれぞれの庭に求められた役割から、性格の異なる作庭がなされている。
一つはリビング南側の雑木林のような主庭、一つはリビングと寝室に挟まれた副庭、そして露天風呂のあるバスコートの3つである。

敷地は南側が道路で、南北に長い形状であった。
道路側から駐車場→玄関→ゲストルームとしての和室→主庭→リビング→副庭→寝室→水回りと、敷地の奥へ進むにつれてパブリックエリアからプライベートエリアへと緩やかに移ろう動線計画とした。
南の主庭から北の寝室までは、主庭と副庭を通してすべて見通すことができる。

この住宅では、最北の寝室で目覚め主庭の雑木林に差し込む陽光を目にしたところから一日が始まる。
主庭の横に設けられたガラス張りのパーゴラで覆われたアウトドアリビングで、最も快適な「半屋外の生活」を享受し、雑木林を愛でながら日中を過ごす。
夜にはクライアント自ら料理の腕を振るいゲストをもてなし、完全にプライバシーが確保されたバスコートで一日の疲れを癒やし、眠りにつく。

人間が都市に生活をしながらも自然を求めることは、狩猟生活が何万年と続いていた人類に刻まれたDNAからして当然のことだ。
むしろ都市に生き続けることのほうが人間にとって不自然なことかもしれない。
しかしながら地方の都道府県であれ、利便性の面から県庁所在地など比較的規模の大きい都市への人口流入が進んでいる。
少子高齢化が一層加速していく限りこの流れはとまらないなか、都市においても草木や自然とともに生きていく住環境の創出は、私達が今後責任を持って考えていかねばならない重要な課題であろう。

私達は樹木の選定等作庭には直接的には関与はしておらず、庭あるいは人工的自然を作るための余白を計画したのみではあるが、そんな事を改めて考えさせられる住宅となった。

■ archdaily 2023.05 掲載
■ archdaily brasil 2023.06 掲載
■ archdaily china 2023.07 掲載
■ designboom 2023.07 掲載

  • 所在地:宮崎県宮崎市
  • 構造規模:鉄筋コンクリート造2階建
  • 敷地面積:343.55㎡(103.92坪)
  • 延床面積:216.87㎡(65.60坪)
  • 構造設計:AS建築
  • 構造監理:田中一級建築士事務所
  • 竣工:2021年
  • 撮影:studio marsh 沼口 紀男